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気ままなゲイライフを送る直也と、自分のセクシュアリティを隠して生きる勝裕。恋人同士の二人の前に、ストレートの朝子が突然現れ、「子どもをつくろう」と、人工授精の話を持ちかける…。舞台やテレビドラマの脚本、俳優業などの活動が続いていた橋口亮輔監督の5年ぶりとなる新作。

僕は橋口亮輔監督の『二十歳の微熱』『渚のシンドバット』にはどこか 突き抜けてなさを感じていた。同性愛という問題を取り上げながら、 やっぱり腰が引けているような感じ。それが今回の『ハッシュ!』では いっさいなくなってすっきりしていた。そして物語も、同性愛映画に ありがちなカミングアウトの困難をめぐる話ではなく、ゲイライフを 選択した後に立ち上ってくる問題を中心に展開している点が、新しかった。

血縁家族のように再生産を中心にしないゲイたちのライフコースは、 いかなるものでありうるのか。あるいは、いかなるものであれば、僕らは そこに「生」の意味を見出しうるのか。そのことは今後、ゲイライフを 選択する者たちにとって、社会的な差別・抑圧の問題以上に深刻に なっていくだろう。僕が昨年発表した『夢見る老後!---クィアジャパンvol.5』 (勁草書房)もまさにそうしたことをテーマにした一冊だったのだが、 同世代人である橋口監督も今、同じところに立って表現をしているということに、 深く感銘を受けた。ゲイにとっての時代的な課題は、「解放」から、 ゲイライフにおいて何を打ち立てることができるのか、ということに移行しつつある。

■伏見憲明(ふしみのりあき) プロフィール
評論家/生年月日:1963年8月21日生まれ/東京都出身/獅子座/慶応義塾大学法学部
「クィアジャパン」編集長。近く、これまでの集大成『ゲイという[経験]』(ポット出版)を刊行
https://www.pot.co.jp/gay/fushimi/index.html



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