(毎月22日配信・無料) 【今月の映画】 フランソワ・オゾン監督作品/『まぼろし』

マリーは毎年夏になると、夫のジャンと共に海辺の別荘に滞在する。 しかし、ある日二人で浜辺に出かけ、マリーがうたた寝をしている間 にジャンの行方がわからなくなってしまう。警察に捜査を依頼するも 見つからず、マリーはそのままパリに戻るはめになる。失踪から数カ 月たってもなお、夫の不在を受け入れることができず、友人らの前で あたかもジャンがその場にいるかのように振る舞ったりする。果たし てジャンは事故にあったのか、それとも自発的に彼女の元を去ったの か…。

フランソワ・オゾンの作品は、初期の短編から長篇作にいたるまで、 作中に同性愛要素が濃厚だったが、今回は皆無になっている。しかし、 殺人、近親相姦など突飛な題材に頼り過ぎて、作劇として拡がりに欠 けていた長篇作品のなかでは、残酷な恋愛を描いた秀作『焼け石に水』 とともに、映画作家としての力量が本格的に開花した作品といえる。

いたってシンプルな話の流れのなか、一切のギミックを使わず、マリ ーの心が揺らいでいく様が丹念に描かれていく。ふとした日常生活の 中から、見えかくれする乱れが、実にサスペンス感あふれている。親 友の助言を受けたり、孤独を癒すかのように男友達と情事を重ねつつ も、夫はマリ−の心からは離れない。そして、次第に長年連れ添った 夫の未知の側面を知るようになる。はたして人間というのは、長く寄 り添えばわかりあえるものなのか? お互いを完全に理解することは できるのか? そして、孤独を癒すということは可能なのだろうか?

オゾンは失踪を通して次第に明らかになっていく、関係性や孤独とい う事柄を残酷に照らしだしていく。『サマードレス』や『海をみる』 同様、海岸や砂浜が事件の発端としてここでも繰り返される。夏の海 辺と冬のパリ、そしてラストの冬の海辺と、異なる季節と土地の組み 合わせが、押しつぶされんばかりの孤独を表現する舞台装置として機 能している。

しかし、なんといっても特筆すべきは、シャーロット・ランプリング の存在だろう。夫が不在のまま不安定な日々を過ごす、中年女性の心 境を抑制された演技で表現していて、圧倒的な存在感を示している。 彼女が出演した『地獄に堕ちた勇者ども』や『愛の嵐』といった作品 にも匹敵するだろう。特にラスト、浜辺をかけぬけるシーンは記憶に 残る名場面だ。

ジョージ・キューカールキノ・ヴィスコンティなど、ゲイの映画監 督は女優の使い方がうまいとも言われるが、オゾンもその系列に位置 するのだろうか。ちなみに彼の次作『8人の女たち』(年末公開予定) では、カトリーヌ・ドヌーヴイザベル・ユペールエマニュエル・ ベアールファニー・アルダンヴィルジニー・ルドワイヤンダニ エル・ダリューという世代を超えたフランス映画界の大スターを起用 した、キャムプな感覚が炸裂するミステリー・ミュージカル・コメディ になっている。こちらも要注目。

ジャンを演じるブリュノ・クレメールや、ゲイの監督アンドレ・テシ ネ作品の脚本執筆・出演ほか、自伝的な監督作『L'Arriere Pays』で、 ゲイの中年男性を演じたジャック・ノロらの好演も忘れがたい。

■監督・脚本:フランソワ・オゾン
■共同脚本:エマニュエル・バーンハイム/マリナ・ドゥ・ヴァン/マルシア・ロマーノ
■出演:シャーロット・ランプリング/ブリュノ・クレメール/ジャック・ノロ
■2001年/フランス/95分/原題:Sous le sable
■配給:ユーロスペース
■公開:9月14日(土)よりシネマライズ他にて全国ロードショー
MILCINEMA評価:★★★★

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