■放送内容&解説
昨年7月5日にフォートキャンベル陸軍基地でゲイの兵士バリー・ウィンチェル2等兵(21)がバットで撲殺された事件について、関係者のインタビューを交え、軍隊内に公然と存在しているゲイ差別を明らかにしたリポート。クリントン政権が、これまで禁止していた同性愛者の入隊を、「同性愛者であることを公言しない、当局は性的傾向を調べない」という“聞かざる・言わざる”の条件付きで認めたのが今から7年前。言ってしまったために除隊の処罰を受けたゲイの兵士はこれまで延べ4500人。このうち、聞いてしまったものも2000件以上あるが、こちらは正式に処罰されたものは1件もないようだ。
■ハヴィエル・トーレス元2等兵(ゲイ)
事件当時、殺されたウィンチェルと同様に、ゲイであることを隠していた兵士。1997年入隊、昨年、ゲイであることを上官たちに打ち明け除隊になった。
「自分と同じ階級にもうひとりゲイがいて、その彼がゲイであるが故に殺された。それを聞いたときは内心恐ろしくなりましたよ。
でもまったく気にしていない振りをしていました。馬鹿なオカマだ、なんて言ったりしてね。自分もゲイである僕としてはそれが一番つらかったですよ」
「ウィンチェル兵士が殺されたとき、他の同僚たちは『オカマが一人減ってよかった。やつらはもともとここにいるべきではないんだし、こんな事態を招いたのはやつら自身の責任だ』と言っていましたよ」
「基地内で同性愛者への中傷を聞かない日は一日もありませんでした。
僕が所属していた小隊では、ゲイを罵倒する歌を歌いながらランニングをしていました。
『前方にホモ発見。やつが退却するまで撃ちまくれ』とね。曹長も率先して歌っていました。事件の後もね。
僕も一緒に歌いましたよ。だって、一人だけ歌わないわけにはいきませんからね」
「毎日自分に嘘をついている状況にはもう耐えられない。
そう思ったら、とてつもない孤独感に襲われ、部屋で一人で泣きました。
あれほどの孤独感を味わったのは生まれて初めてでした。
国のために尽くしたい、自分をもっと高めたいと思ってはいましたが、
ああいう環境では無理でしたね」
■ロバート・マギニス元中佐
「その原則は本質的に不平等であり、ゲイ兵士たちにとっては危険ですらある。
このところ、軍がゲイに友好的であるからと思って入隊してくる同性愛者が多いのですが、じつはそんなことはないのです。
軍は、これまでも守れもしない約束を公然と口にしては、彼らをだまして入隊させてきました。
その結果が、フォートキャンベルのような悲惨な事件を引き起こしているのです」
■スティーブ・メイ中尉
アリゾナ州下院議員であり、陸軍予備隊に所属。立法府の政治討論会で同性愛者であることを公言し、
現在、除隊の危機にある。
「同性愛者は軍人には向かない。だからレズビアンやゲイとわかった時点で除隊にする。
それが軍の公式見解なんです。だから兵士たちもゲイは悪い、やつらはここにいるべきじゃないと考えてしまうんです。
陸軍も、空軍も、海軍も、差別を強要するような方針を続けているかぎり、この国を守りきることなんてできないですよ」
■被害者、バリー・ウィンチェルの母
「息子は軍人で基地の中で安全に眠っていたはずなんです。
それがあんなむごい殺され方をして…。
あの子は陸軍一の兵士になろうと必死に努力していたんです。
でもそれももうおしまいです」
■TBSテレビ・結びのコメント 「軍隊だけが変われと言ってもそれは無理」
「聞かざる言わざるの原則を作ったクリントン大統領は最近あれは失敗だったと発言して、ゲイの処遇についてもう一度見直すべきだと言っているんですね。ペンタゴンも困りはてていると思いますね。軍隊でのゲイへの差別をなくせと言うものの、軍隊の文化はゲイを受け入れる文化ではないってことはわかりきっていますからね。ゲイだからコンバットが苦手、ということはまずありえないと思う。でもまだいろんな偏見があるし、いま若者が聞いているラップの中でもゲイ差別の歌がたくさんあるし、全体の価値観
が変わらなければ軍隊だけが変われと言っても無理なこと。その一方で、CIAでは最近はじめてゲイの職員を採用することになったんだそうです」
(2000年7月23日放映 評価:★★★)
【メディアチェック】三つ星評価の見方
★★★…セクシュアルマイノリティ当事者から見て、不快に思わない内容だった
★★☆…不快に思う内容が含まれていた
★☆☆…非常に不快に思う内容だった
|milk vol.34 2000/09/22 |home|2000 |