【産経新聞】新たに「憎悪犯罪」の対象に/同性愛者に揺れる米国社会
■新たに「憎悪犯罪」の対象に/同性愛者に揺れる米国社会
■10月25日付産経新聞

人種や宗教などを理由とする犯罪「ヘイト・クライム」(憎悪犯罪)に、アメリカ社会が揺れている。同性愛者のワイオミング大学生マシュー・シェパード君(21)が殴殺された事件は、同性愛者を社会の「異端者」と見る風潮が依然として根強いことを見せつけた。事件が、連邦議会に提出中の同性愛も対象としたヘイト・クライム防止法を求める声を強める一方、11月3日投票の中間選挙ではハワイ、アラスカ両州で同性同士の結婚を禁じる州法案の賛否を問う住民投票が行われる。

ワイオミング州ララミー市郊外で、頭がい骨が後頭部から右耳にかけて陥没するほど殴打され、フェンスにくくりつけられているのを発見されたマシュー君は5日後の10月12日、死亡した。21歳と22歳の男性二人が第一級殺人罪などで起訴されたが、警察当局は犯行の動機に関し、「マシュー君が同性愛者を公言していたことも理由だ」としている。

全米が受けた衝撃は大きかった。クリントン大統領は「アメリカ人が、自分とは違う人々に対する恐れや嫌悪を取り除くためにできることを行うよう望む」との声明を発表。ヘイト・クライム法の必要性を訴えた。マシュー君はヘイト・クライム撲滅運動のシンボルになった。

米国のヘイト・クライムといえば、南北戦争後の19世紀後半に南部を中心に急速に拡大した白人優越主義のテロ組織「クークラックスクラン(KKK)」による黒人とその支持者を標的にした襲撃事件に代表されるように、人種差別に基づくものが多い。最近では今年6月、テキサス州ジャスパー市で黒人男性(43)が足首を鎖でつながれ、トラックで約3キロ引きずられて殺害される事件が起きた。逮捕された男性三人は白人優越主義者だった。

同性愛者も攻撃の対象となったことは、時代を先取りするゆえのアメリカ社会のきしみを物語る。米連邦捜査局(FBI)の統計では、1996年に報告されたヘイト・クライム8756件のうち、同性愛が動機とされるのは11.6%。しかし、人種や国籍、宗教を動機とする場合と違い、同性愛は連邦犯罪から除外される。現在41州でヘイト・クライム法が成立しているものの、同性愛者を保護対象にしているのは、21州だけ。マシュー君事件が起きたワイオミング州では過去3回、ヘイト・クライム法が拒否されている。

米国では、従業員の同性の配偶者にも手当てを支給する企業が珍しくないほど同性愛に対する「認知」は進んでいる。連邦最高裁は93年、州には同性結婚を禁じる権利はないとする判断を示し、ハワイ州では同性結婚が認められたほど。

それでも、市民団体「同性愛者への中傷に反対する同盟」がマシュー君事件について、「加害者の同性愛に対する嫌悪感は、家族やメディア、社会から植え付けられたものだ」(スコット・ソーミン広報部長)と指摘するように、社会規範を重視する保守的な考えの市民は「認知」に強い抵抗を示す。

「伝統的価値観の連合」のアンドレア・シェルダン専務理事はロサンゼルス・タイムズ紙に、「ヘイト・クライム法を同性愛者にまで拡大することはやり過ぎだ。特定の犯罪をより憎むべきとして規定し、政治論争にすべきではない」とコメントしている。

CNNテレビが最近発表した世論調査結果によれば、82%が、政府は同性愛を異性愛と同等に扱うべきだと思う一方で、同性愛を道徳的に間違っているとする人が依然48%いた。


|milk vol.11 1998/11/22 |home1998

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