【産経新聞】アメリカのゲイ殺人事件、対立・憎しみから寛容へ/「権利擁護」高まる声
■アメリカのゲイ殺人事件・対立・憎しみから寛容へ/「権利擁護」高まる声
■10月19日付産経新聞

米ワイオミング州でゲイであることをカミングアウト(公表)していた大学1年生が、頭がい骨を骨折するほどめった打ちにされ、牧場の柵に縛り付けられて死んだ事件は、米国の奥底にある性的志向をめぐる対立感情の根深さを見せつける一方、改めてゲイの権利擁護に焦点を当てる結果となっている。人種や宗教の違いなどを理由にしたヘイトクライム(憎しみの犯罪)法の保護対象にゲイを加えることや、対立や憎しみでなく寛容を訴える声が高まっている。

ゲイであるというだけで誘拐され、屋外に18時間も放置されて殺害されたマシュー・シェパード君(21)の葬儀は10月16日、マシュー君が洗礼を受けたキリスト教の長老派の教会で行われた。季節はずれの雪に見舞われたワイオミングの小さな町、キャスパーでは葬儀の開始にあたってちょっとした騒ぎがあった。

「天国にはゲイはいない」「神はゲイを憎む」―。教会でのゲイの葬儀に反対する十数人が、プラカードを掲げて葬儀への参加を阻もうとした。参加者約千人は落ち着いて行動し問題は起きなかったが、これより先、米南部の教誨師同社がピケを呼びかけたことも報じられ、キャスパー議会は反対運動を禁止するよう警告していた。

マシュー君が「コヨーテのように」(西部ではコヨーテが牛などを襲わないように殺してさらした)牧場の柵に放置されて10月12日に死亡したあと、全米で事件に抗議し、マシュー君を悼む集会が行われた。首都ワシントンでは、テレビの人気番組でレズであることをカミングアウトした女優のエレンさんが、「私たちは普通の性的志向の人にお願いしたい。どうにかこれを憎しみを止めるきっかけにしてほしい。私たちが自分自身でなくなることはできないのだから」と訴えた。

クリントン政権は大統領自身が連邦法の人種、宗教の違いからくる憎しみによる犯罪の封じ込めを狙ったヘイトクライム法の対象にゲイと女性、身体障害者を含めることを議会指導者に訴えるとともに、リノ司法長官が全米の検事事務局に、地域のリーダーらによる作業グループを設け、犯罪防止に全力を挙げるよう命じた。

米国はハワイ州がゲイの結婚を認めたり、ニューヨーク市役所や、IBMなどの大企業が、ゲイの配偶者に対しても保険の適用を認めるなどゲイの権利擁護は大きく前進している。しかし、一方でクリントン大統領も属し千六百万人の会員を擁する南部バプテスト会議が、ディズニーがゲイに寛容だとしてディズニーワールドのボイコットを打ち出すなど対立は先鋭化しているようにも見える。

マシュー君の葬儀のあと、父親が「世界が息子に対して与えてくれた愛を決して忘れない」と語り、そばで母親が泣き崩れる姿が伝えられた。マシュー君の通っていたワイオミング大学はフットボール選手がマシュー君を忘れないために、寛容と平和を示す黄色と緑のステッカーをヘルメットにつけてプレーする。


|milk vol.11 1998/11/22 |home1998

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