【朝日新聞】活発化する「性」に関するシンポジウムの様子をレポート
■活発化する「性」に関するシンポジウムの様子をレポート
■11月30日付け朝日新聞

11月30日付けの朝日新聞で、埼玉医科大学の性転換手術を機に、 各地で相次ぐ性を巡るシンポジウムの様子を伝える記事が掲載され、多くの人々へ伝えられた。

記事中で取りあげられたのは、9月末に東京ウィメンズプラザ ホールで 行われた「TSとTGを支える人々の会」主催のシンポジウム、11月1日に 一橋大学にて行われた一橋セクシャルスタディーズ・シンポジウム、 同じく22日に行われた東京女子大学園祭でのレズビアンをテーマに したトークライブの3つのシンポジウム。

パネラーとして迎えられた人たちや当事者の声をそのまま掲載し、多様な性を語り合い、性に縛られない 社会づくりが求められている現状を伝え、性の少数派の意見を聞き入れ ることは新しい価値観の獲得につながることを訴えた。 以下、朝日新聞掲載記事より。

■多様な「性」語り合おうよ・シンポで議論活発


埼玉医大で十月に行われた性転換手術をきっかけに、このところ「性」を巡る議論が活発だ。東京では大学の学園祭などで相次いでシンポジウムが開かれた。同性愛や肉体と異なる性で生きる「トランスジェンダー」は「障害」か、性役割の解体をめざすフェミニズムとの関係は―など、性的少数者や性の多様性を取り巻く新たなテーマが話し合われた。

今月22日に開かれた東京女子大の学園祭では、レズビアンをテーマにしたトークライブが開かれ、百人を超える聴衆が集まった。実行委員会の植村明子さんは「同性愛も『障害』と理解されると問題だと思った。まず実際にそうした人と会い、語れる場を作りたかった」という。

■イメージ貧弱な世間

ライブでは、20代の同性愛の女性二人とライターの北尾トロさんが対談。子供のころから女性に魅力を感じたという女性は「最初は悩んだが、今はテニスが好きか野球が好きかと同じ趣味の問題だと思っている。聞かれたらレズビアンと答えるが、皆が理解すべきだとは思わない」と話した。会場からの質問に対して、「病気や障害と違ってレズビアンは『直すもの』じゃない」「相手との肉体関係の有無は異性愛の人と同じ。精神的つながりを大切にする人もいればセックス中心の関係もある」と答えた。

北尾さんは「性の問題になると、そこだけに目が向く。彼女らを取材してみたら『なんだそうか』だった。外から植え付けられるイメージは貧弱だ」と体験を語った。

■フェミニストと対論

「なんでわざわざ男から女になりたいの? っていう思いがある。女として生きるのは大変だと言いたい」 「体は男なのに女性の服を着たいという思いの根っこにあるのは、自分の肉体への違和。社会の問題というより、身体に強く根ざした問題だ」

フェミニズムの研究者と、肉体と異なる性への転換を求める「トランスジェンダー」(TG)が、そんな議論を繰り広げたのは、先月都内で開かれたシンポジウムだ。性同一性障害の自助・支援グループ「TSとTGを支える人々の会」の主催で、原ひろ子・お茶の水女子大教授ら女性学の研究者やトランスジェンダーの当事者らが参加した。

トランスジェンダーもフェミニズムも、既存の「男・女」という性の枠組みに違和を唱える点では立場は同じだ。だが、「自分は男か女かにこだわるトランスジェンダーは、性の二元性を強化するのではないか」という声がフェミニズムの一部にある。「性に縛られない社会を目指す上で両者は手を結べるのか。接点を探りたい」と主催者。

フェミニズムの側からは「トランスジェンダーは、服装や外見などへのこだわりが大きいのではないか」との指摘があったが、一方で「フェミニズム自身も、個人の肉体から発した多様な幸せのあり方を視点に採り入れるべきだ」といった意見も出された。

パネリストの一人でゲイライターの伏見憲明さんは「トランスジェンダーが自分たちを『障害』『病気』と認めて、手術という実利をとるのは志が低いと思う。男でも女でもない形でも生きられる社会を目指すという点で、両者は手をとりあい、ともに成熟できるのではないか」と話した。

■性の教育実践を紹介

一方、性的少数者と教育の問題を取り上げたのは一橋大学園祭でのシンポだ。東京都立大非常勤講師の伊藤悟さんが、同性愛であることに悩んできた学生時代の自分の体験や、同性愛の理解のために行っている出張授業の様子などを語った。続いて岐阜大助教授の吉田和子さんが、高校で続けてきた性に関する教育実践を紹介し、「マイノリティーの視点から当たり前とされるものを疑うことは、新しい価値観を獲得することにもなる」と話した。


|milk vol.12 1998/12/22 |home1998

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